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東京地方裁判所 平成11年(合わ)296号 判決 1999年12月27日

主文

被告人を懲役七年に処する。

未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

押収してある回転弾倉式けん銃一丁(平成一一年押第一五八六号の1)を没収する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、

第一  平成一一年六月四日午前四時ころ、東京都江戸川区松島三丁目四〇番五号付近路上において、回転弾倉式けん銃一丁をこれに適合する実包四発と共に携帯して所持し、

第二  右日時及び場所において、右けん銃を用いて、同区松島三丁目四〇番五号所在の暴力団松葉会上萬一家総本部事務所の出入口方向に向けて銃弾四発を発射し、もって、不特定又は多数の者の用に供される場所においてけん銃を発射し、

第三  同年七月八日、同区東小岩六丁目九番一七号所在の警視庁小岩警察署において、回転弾倉式けん銃一丁(平成一一年押第一五八六号の1)を所持したが、同日、同所において、同警察署の司法警察員に対し、右けん銃を提出して自首し

たものである。

(証拠の標目)省略

(弁護人の主張に対する判断等)

一  弁護人は、被告人が、自ら警察署に出頭してその所持に係るけん銃を提出し、自己の犯罪事実を申告したのであるから、<1>判示第一のけん銃加重不法所持及び判示第二のけん銃不法発射の各罪については、いずれも刑法四二条一項の自首が成立し、<2>判示第三のけん銃不法所持の罪については、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の五又は刑法四二条一項の自首が成立する旨主張する。

二1  そこで、検討すると、関係各証拠によれば、<1>被告人は、平成一一年七月八日、警視庁小岩警察署に出頭し、同警察署の警察官に対し、松葉会本部事務所にけん銃を発砲したのは自分で、その発砲したけん銃を持ってきたなどと言って、判示第三の回転弾倉式けん銃一丁を提出し、けん銃不法所持の現行犯人として逮捕されたこと、<2>警視庁科学捜査研究所の研究員が、右けん銃の付着物を鑑定したところ、射撃残渣と思料されるものは検出されなかったこと、<3>取調官が、右けん銃からは銃弾が発射されていないと被告人を追及したところ、被告人は、右けん銃が判示第一及び第二の各犯行に使用したものではない旨供述するに至ったこと、<4>被告人は、右警察署に出頭する前に、右けん銃の弾倉に花火を差し込んで爆発させたり、右けん銃の銃口にヤスリを差し込んで傷を付けたりしていることなどの事実が認められる。

2  そして、被告人は、判示第三のけん銃を判示第一及び第二の各犯行に使用したとの虚偽の事実を警察官に告げた理由について、判示第一及び第二の各犯行に使用したけん銃は既に廃棄しており、別のけん銃を持って出頭しても、警察には分からず、深く追及されることもないと思って、判示第三のけん銃に種々の細工を施し、いかにも発砲に使用したように見せ掛けた上で、右けん銃を判示第一及び第二の各犯行に使用したように偽って警察に提出した旨供述している。

三  そこで、まず、判示第一のけん銃加重不法所持及び判示第二のけん銃不法発射の各罪について自首の成否を検討すると、右二の1認定の各事実及び同2掲記の被告人の供述を合わせ考えれば、被告人は、警察官に対し、判示第一及び第二の各犯行に自らが及んだこと自体は認める内容の申告をしているものの、その際にいかなるけん銃を使用したのかという右各犯行における重要な部分について、捜査に混乱や支障をもたらすことも意に介さず、あらかじめ判示第三のけん銃に発射を装う偽装工作を施した上、警察官に対し、右けん銃を判示第一及び第二の各犯行に使用した旨の虚偽の内容を積極的に告げていることが認められる。刑法の自首制度には捜査等を容易ならしめたという点がその理由に含まれているのであり、このような自首制度の趣旨や目的等に照らすと、右のような事情の下において、判示第一及び第二の各罪につき、被告人が自己の犯罪事実を申告したものと認めることはできず、被告人に刑法四二条一項の自首は成立しないというべきであって、弁護人の主張は採用することができない。

四  次に、判示第三のけん銃不法所持の罪について自首の成否を検討すると、右二の1認定の各事実等によれば、被告人は、判示第一及び第二の各犯行の関係では右三で見たように申告内容に虚偽を交えているものの、判示第三の犯行の関係では、警察官に対し、自らけん銃を不法に所持していることをありのままに自発的に申告し、その所持に係るけん銃を提出して、その処分に委ねる意思表示をしていることが認められる。したがって、判示第三の罪については、弁護人の主張のとおり、被告人に銃砲刀剣類所持等取締法三一条の五の自首が成立するというべきである。

(法令の適用)

罰条

判示第一の所為   銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三第二項、一項、三条一項

判示第二の所為   銃砲刀剣類所持等取締法三一条、三条の一三

判示第三の所為   銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三第一項、三条一項

刑種の選択     判示第二の罪につき有期懲役刑

法律上の減軽    判示第三の罪につき銃砲刀剣類所持等取締法三一条の五、刑法六八条三号(所持に係るけん銃を提出して自首したもの)

併合罪加重     刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、一四条(刑及び犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入 刑法二一条

没収        刑法一九条一項一号、二項本文(判示第三のけん銃不法所持の犯罪行為を組成した物で、被告人以外の者に属しないもの)

(量刑の理由)

本件は、被告人がけん銃一丁を適合実包四発と共に携帯して所持したというけん銃加重不法所持の事案、被告人が不特定又は多数の者の用に供される場所において右けん銃を発射したというけん銃不法発射の事案、さらに、被告人が別のけん銃一丁を所持したというけん銃不法所持の事案である。

まず、判示第一及び第二の各犯行について見ると、被告人は、暴力団五代目山口組貴広会川口総業の組員であった者であるが、平成一一年六月三日午後一一時半ころ、同組の幹部から、同組の事務所が暴力団松葉会上萬一家の組員にけん銃を撃ち込まれた旨の連絡を受けたことから、組長の面子を潰されたと憤激し、これに対する報復として、松葉会上萬一家の事務所にけん銃を撃ち込むことを決意した。そこで、被告人は、組仲間から自動車を借り受けて、松葉会上萬一家増谷組の事務所付近の下見をしたが、より上部組織である松葉会上萬一家総本部事務所にけん銃を撃ち込むことに計画を改め、同事務所関係者が寝静まるころまで別の場所で待機し、翌四日午前四時ころ、同事務所の周辺を幾度も回ってその様子を窺った上、同事務所前路上から、所携の回転弾倉式けん銃を用いて続け様に四発の銃弾を発射し、同事務所の出入口等に命中させ、直ちにその場から立ち去っているのである。このように、被告人の右各犯行は、用意周到に準備した上で敢行された計画的なものであり、その動機も、対立する暴力団に対する報復という暴力団特有の発想に基づくものであって、酌量の余地はない。高度な殺傷能力を有する真正けん銃をこれに適合する実包と共に携帯して所持することは、それ自体が社会に対して著しい脅威を与えるものであるところ、被告人は、右けん銃を使用し、暴力団事務所の出入口方向に向けて四発の銃弾を発射するという行為にまで出ているのである。右発射行為は、商店街や民家が密集する地域で行われたものであり、一歩間違えば、同事務所内にいた暴力団組員や付近の住民をも巻き添えにしかねない甚だ危険な犯行であって、近隣住民に与えた恐怖感や不安感も大なるものがあったというべきである。

次に、判示第三の犯行について見ると、被告人は、けん銃を持って自ら警察署に出頭したのではあるが、あらかじめ右けん銃に発射を装う種々の細工を施した上、右けん銃が判示第一及び第二の各犯行に使用したものであるとの虚偽の事実を警察官に告げているのである。このような被告人の行動は、自首の点は酌量すべきものがあるとしても、反面において捜査を攪乱しかねないものであって、その点、厳しく咎められなければならない。

近時、暴力団等によるけん銃を使用した凶悪事件が多発し、大きな社会不安を引き起こしていることから、数次にわたる法改正により、けん銃に関する規制や罰則が大幅に強化されているところ、被告人は、これらの事情を十分に知りながら、暴力団の組員として安易に本件各犯行に及んでいるのであって、厳しい非難を受けるのは当然である。また、けん銃事犯に対する社会的非難がますます厳しくなっている今日、この種の事案については、一般予防の観点も考慮する必要がある。

したがって、以上の諸点に照らすと、本件の犯情は極めて悪く、被告人の負うべき刑事責任には重いものがある。

しかしながら、他方、被告人のために酌むべき事情も存在する。すなわち、被告人は、現在では、本件各犯行に及んだことを反省している。被告人は、自ら警察署に出頭し、判示第三の罪については、所持に係るけん銃を警察官に提出して自首しているのであって、少なくとも右けん銃に係る新たな犯罪の発生の防止には寄与している。被告人の内妻が、被告人の社会復帰後にはその生活を監督する旨約している。被告人には、傷害罪等で罰金刑に処せられた前科が四犯あるものの、懲役刑に処せられた前科はない。その他、弁護人が指摘するような被告人のために有利に斟酌することのできる事情も認められる。

そこで、以上のような被告人に有利不利な一切の事情を総合考慮した上、前示のとおり刑を量定した次第である。

(検察官細野隆司、私選弁護人伊東章各出席)

(求刑 懲役一〇年、回転弾倉式けん銃一丁没収)

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